〜プロローグ〜
 
 
 
 
 世の中には、あの時こうしていたら……と考えることが多々あると思う。俺―――キール・ダグラスもその考えについて否定はしない。というか、現在進行形で考えている。
 
 まず、何から間違っていたんだ? ショートカットと食料探しを兼ねて森(樹海)を通ったからか? それとも旅をしようと決めた元凶で、一年前にたまたま通りすがりの女性に絡んでいた貴族の禿げオヤジを殴って王立戦士団を退団させられた事か? いや、そもそも戦士団に入ろうとしたこと自体間違いだったのかもしれん……
 
 いや、解ってるんだ。今はそんな事は関係ない。今更過ぎ去ったことをグダグダと考えても生きていけないというのは骨身に染みている。でも、俺はこれだけは間違っていたと思う―――
 
 
 
 
 
 「いや、ホント悪かった! でもさ、ちゃんと財布はポケットに入れていたんだって! まさか、ポケットに穴が開いてるなんて思ってなかったというか……」
 
 
 
 
 
 ―――そう、こいつを信用したことだ。
 
 
 
 
 
「やかましい! そもそも間違ってたのはお前に金を預けたことじゃなくて、お前を信用した俺だ! この役立たずが! いや、このゴミ!」
 
「ごっ、ひどっ!? 役立たずはまだ仕方ないとしても、ゴミって酷すぎるだろ!?」
 
「ああ? ……まあ、酷かったな。よく考えたら俺が悪い。ゴミに失礼だ」
 
 ゴミでも、まだマシな使い道があると思う。 
 
「え、俺の存在価値ってゴミ以下? どんだけ俺の価値って低いゲフッ!?」
 
 ギャーギャーと喚きたてる馬鹿の面に裏拳をいれて黙らせた。
 
 正直に言おう。今、俺の目の前で頬を押さえて倒れている銀髪の男は、旅の資金を『全部』……よりにもよって有り金を『全部』落としやがった。宿に泊まったり、食料を購入したりする金をだ。いや、俺は自分のヘソクリが多少はあるがそれだけで旅を続けることなど不可能。
 
 よって、いくらこいつと付き合いの長い俺でも簡単に「はい、そうですか」と許す気にはなれない。というか許せん。
 
「さて、心優しい俺はお前にチャンスをやる。……死ね」
 
「な、なあ……それはチャンスじゃなくて止めじゃ―――」
 
「何か言ったか?」
 
「すいません! 死ぬのだけは勘弁してくださいキール様!」
 
 ちっ、最大限の譲歩のつもりだったんだが……まあいい。とりあえず目の前の土下座している馬鹿の哀れさを見ていたら溜飲は少し下がったし、さっきも考えていたが過去を振り返っても何もならない。つまり無駄だ。
 
「はあ……ロゥ、とりあえずお前には今後金銭的なことに関しては一切信用しないが、お前に過去何度も助けられたこともある。だから、今回『だけ』は許してやろう」
 
「え、マジ?」

 目を輝かせて顔を上げる馬鹿に、頭がまた痛み始める。というか、お前本当に悪いと思っているのか!? と言いたくなったがそこは耐えた。
 
「ああ、マジだ。でもな、結局は金が無くなったことには代わりはない。―――そこで、お前にひとつ聞きたいことがあるが……金はどうすれば手に入る?」

 とりあえず、地面に座ったままの馬鹿に手を貸して立ち上がらせながら聞く。もちろん、いろんな意味で素直な奴は突然の問いかけに驚きながらも真剣に考えてくれた。
 
「金か? ……そりゃあ、働くか物を売るでもしないと手に入らねえよな?」
 
 ほう、こいつにしてはいい答えだ。
 
「というわけだ。……お前を人材派遣商人に売り飛ばす」
 
「勘弁してください!」
 
 再び地に額をこすりつけるロゥに冗談だと言うと、「目が本気だった」とかぬかしたのでもう一回土下座させてやった。
  
 
 
 
 
 
 既に、日が沈みかけていたが。
 
 
 
 
 
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